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京都地方裁判所 昭和47年(ワ)1184号 判決 1975年12月23日

原告

森田茂雄

右訴訟代理人

崎間昌一郎

外三名

被告

共立陶業株式会社

右代表者

松本昌巳

右訴訟代理人

植松繁一

主文

一、被告は原告に対し、二九三万三六一四円及びこれに対する昭和四七年一〇月二五日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告のその余を被告の各負担とする。

四、この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は原告に対し金六〇〇万円及びこれに対する昭和四七年一〇月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告は昭和二一年六月陶磁器の製造を目的とする会社である被告との間に従業員として労働契約を締結し、右契約関係は原告が休業した同四二年八月一二日まで継続した。

2  原告は被告の指示により、昭和二一年六月から同二八年までならびに同三八年二月から同四二年八月までは被告住居地の陶磁器製造工場(以下宝蔵町工場と称す)において、同二八年から同三八年二月までは京都市東山区今熊野南日吉町一一四番地所在の陶磁器製造工場(以下南日吉町工場を称す)において、右全期間を通じて仕上作業に従事した他、同二一年六月から同三五年初めまではかま詰作業に、同三一年から同四二年八月までは石膏型成形作業に主として従事した。

3(一)  前記仕上作業とは素材の成形、乾燥された半製品に紙ヤスリ(カーボランダムペーパー)で仕上げをなすものであり、紙ヤスリで半製品を摩擦する際、及びその結果半製品に付着した粉じんをハケ等により払う際などに遊離けい酸を含む粉じんが飛散するものである。

(二)  又前記かま詰作業とは登がまの内部へ仕上げされた半製品を詰めた匣鉢を人力で持ち入れて積み重ねる作業であり、一室に詰め終るのに百数十回往復(時間にして三、四時間)が必要であり、かまの内部を歩く際、床に滞積していた遊離けい酸を含む粉じんが舞い上り飛散するものであつて、いずれも粉じん作業といわれるものである。

4  原告は被告会社に於いて昭和二一年以降前項の粉じん作業に従事した結果、同三一年以前において既にじん肺に罹病したが、その後も自己がじん肺に罹病しており、かつ療養を要する状態であることを全く知らされずに粉じん作業に従事させられた結果、病状は同四一年から同四二年にかけて急激に悪化し、左右両肺部にあつた大陰影が右肺下部にまで及び、同四二年八月一二日就業中頭痛を伴う異常な全身倦怠感に襲われ、同日以降原告は右じん肺により労働不能の状態となり、現在に於てももはや回復の見込なく、一生の療養生活を余儀なくされている。

5  債務不履行と不法行為責任

(一) 原告・被告間の労働契約により原告の提供すべき労務内容は陶磁器製造工程中の粉じん作業であり、同作業はじん肺に罹病する危険性の極めて大きいものであつたから被告は使用者として同契約により原告に対し、原告がじん肺に罹病しないよう安全な環境、設備を提供する義務ならびに原告がじん肺に罹病した場合にはその病状の程度に応じて必要な措置を講ずる義務を負い、右各義務の最低基準は労働者保護に関する種々の法律によつて補完される。

(二) その具体的義務として、被告は粉じんを発散する屋内作業場においては、場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように、局所における吸引、排出、新鮮な空気による換気等適当な措置を講じることを要し、又粉じんの発生する作業や衛生上有害な場所において作業に従事する労働者に対してはこれに使用させる為呼吸用保護具を備えることを要し、その個数は同時に就業する労働者の人数と同数以上を備え、常時有効かつ清潔に保持しなければならない義務を負つていたところ、被告は屋内において前記粉じん作業に従事する原告に対しその就業以来休業に至るまで右いずれの義務も全く履行しなかつた。即ち被告は作業場内の空気の粉じん含有度を測定したことも局所粉じん吸引排出装置を設置したことも換気扇を設置したこともなく、保護具は宝蔵町工場に僅か一個あつたのみで、それも常時有効、清潔に保持されている状態でなかつた。

(三) 更に被告は使用者として労働基準局長より労働者がけい肺等特別保護法に基づく症度区分決定、じん肺法に基づく管理区分決定の通知を受けたときは、遅滞なくその内容を労働者に通知し、特にその決定が症度区分四、管理区分四の場合は右通知において療養を要する旨を明らかにする義務を負つていたところ、京都労働基準局長が原告についで、昭和三一年一一月九日ならびに同三五年三月二四日症度区分四の決定をなし、更に同三八年七月一六日管理区分四の決定をなし、被告に対しその旨各通知したにも拘らず、被告は原告に対し、右各決定通知を受けたことかつ療養を要することの通知義務を全く履行しなかつた。このため原告は右の各決定を知らなかつた。

(四) 以上のとおり原告のじん肺罹病は原告が被告会社において入社以来休業するまでの間、被告が前記労働契約に基づく各義務を尽さなかつたためであるから、これは被告の債務不履行、不法行為を構成するので原告に対し後記損害を賠償する義務がある。

6  損害

(一) 休業損害ならびに逸失利益

昭和四二年八月当時の原告の年間賃金は五九万五二〇〇円であつたところ、同月一五日以降原告は年額三三万九四五〇円の労災保険よりの休業補償を受けたのでその損失はこれを差引き年間二五万五七五〇円となるので昭和四七年八月一四日までの五年間分の休業損害は一二七万八七五〇円である。更に原告は被告の本件違法行為がなければ同日以降少くとも五年間は労働可能であつたからこの五年間の逸失利益は次の計算により一一一万六〇九三円となる。

255,750×4.364(ホフマン係数)=1,116,093

よつて右の休業損害、逸失利益合計二三九万四八四三円のうち二〇〇万円を請求する。

(二) 慰藉料

原告は、じん肺に罹病し甚大な精神的損害を被つたので、これに対する慰藉料額は四〇〇万円が相当である。

7  よつて原告は被告に対し右の損害賠償金合計六〇〇万円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四七年一〇月二五日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否<以下―略>

第三  証拠<略>

理由

一労働契約締結について

被告が陶磁器の製造を目的とする会社であること、原告が被告会社設立時の昭和一七年よりその株主であるとともに監査役や取締役などの役員であつたこと、原告が昭和二一年六月から同四二年八月一二日まで陶磁器製造作業に従事していたことは当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実に<証拠>を総合すると次の事実が認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

1  原告は、昭和二一年六月初め、被告の当時の代表取締役松本華に勧められて被告会社で働くようになつた。

2  原告は昭和二一年六月から同二八年まで及び同三八年二月以降同四二年八月までは宝蔵町工場に、同二九年から同三八年二月までは南日吉町工場に各勤務し、その全期間を通じて仕上げ作業に、同二一年六月から同三三年ころまでの間はかま詰作業に、同二九年から同四二年八月までは石膏型成形作業等に各従事していた。

3  原告は入社当時から被告会社の監査役となりついで昭和四二年から同四七年四月まで取締役となつていたが、原告の監査役としての行為は、決算書類の承認印を押していただけで、会社の帳簿内容を調べたり、会社経営に参与したことなく、又実際上取締役としての職務を行うこともなかつた。原告が右のように被告会社の役員に名を列ねていたのは昭和一七年企業整備で原告の生家が被告会社に統合された経緯によるものであつた。

4  原告の就労期間を通じて、被告の経営は前代表取締役松本華が、経理は現代表取締役の松本昌己が担当し、原告は右両名の指示に基づき専ら陶磁器を作る現場での作業に従事していた。

以上のごとく認められる。

そこで会社の役員である者と会社との間に労働契約関係が成立するかどうかであるが労働基準法が労働者とは職業の種類を問わずその事業に使用される者で賃金を支払われる者をいうと規定し(同法九条)、使用者とは事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為するすべての者をいう(同法一〇条)と規定している趣旨等に鑑み、会社の役員であるということだけで一概に使用者とみるべきではなく、会社の業務に於けるその実質的関係をとらえて判断すべきであり、特に中小企業に於けるが如く取締役、監査役等会社役員たる名称を有しているがその実は労働者で実質的には会社の経営に関する意思決定に殆んど参与していない場合には、なお前記法条に定める労働者と解し、会社との間に労働契約関係の成立を認めるのを相当とするところ、前記認定事実によれば、原告は入社当時から昭和四七年四月までの間被告の役員として名を列ねていたとはいえ、名前だけの役員であつてその実体は現場労働者であつたということができるから、原告が被告会社に入社した昭和二一年六月初め原、被告間に労働契約が成立し、その後引続き右契約関係が継続したと認めるのが相当であり、役員なるが故に労働契約関係はないという被告の主張は採用できない。

以上のごとく、原、被告間には労働契約がありその契約内容は、原告が被告の提供する職場で労務を提供して賃金を受ける半面、被告は労働基準法、じん肺法、労働安全規則等により要求されている労働者の健康を守るにふさわしい環境を整備する義務があり、それに違反せば債務不履行の責を負うべきものといわねばならない。

二原告のじん肺罹病、その因果関係及び責任

原告がじん肺に罹病していることは当事者間に争いがない。

<証拠>によると次の事実が認められる。

1  原告の生家は戦時中の企業整備で被告に統合されたが、それまでは被告と同じ陶磁器製造業者であつた。この陶磁器業とは京都の伝統的な産業である清水焼を作るもので、その作業は原料である粘土を買つて来て、それを成形し、乾燥し、焼上げるもので、作業内容を大別すると原告が主張するように石膏の型を作ること、仕上げ、釜詰め、焼上げ等になるが、粘土から陶磁器を作るのであるからその作業場内は全体として粉じんが多く、特に仕上げというのは半製品に紙やすり等をかけて摩擦するものであるから付近に粉じんの飛散が多い。しかし陶器は半乾燥の状態で削るため粉じんの飛散が少い。

この陶磁器製造の作業場で働く者は呼吸に際し永年にわたり粉じんを吸うため、粉じんの刺激で肺の中の線維の増殖が起り肺胞が小さくなつて肺機能が低下し、心臓が悪くなり人体の健康を害するもので、肺結核と合併又は共存し易い疾病でありこれをじん肺と呼んでいる。

2  このじん肺が戦前からあつたことは当然であるが、職業病として注目されその対策が強く叫ばれだしたのはむしろ戦後のことといつてよく、特に昭和三〇年七月鉱山労働者で硅酸じんのため罹患した者に対するけい肺特別法が制定され、ついで昭和三五年三月に制定されたじん肺法が施行された頃からその認識が深まつた。このじん肺法は労働者をじん肺から守るため健康診断の実施、それにより発見されたじん肺罹患者の健康管理程度を一ないし四と区分し、各府県労働基準局長はこの管理区分を使用者に通知し、管理区分三の労働者の使用者には作業の転換を勧告すること、管理区分四と決定された労働者は療養を要するものであるから使用者がその旨を労働者に通知しなければならないこと等を定めているが、昭和三〇年代の終り頃迄この法律がその通り実行されているとはいえない実情にあつた。

3  今までわが国で陶磁器業に携りじん肺に罹患した者の年令は四〇才以上の者が多く、三〇才台では少い。又それらの人々が粉じん作業に従事した期間は二〇年以上の者が多い。このことは粉じんの多いところで永年働いていた者に発生する病気であることを物語つている。但しこのために死亡する人の年令が一般の人に比べて特に低いということもないようである(甲第五号証の二七頁)。

4  原告は学校を退いた昭和三年一二月から徴兵で入営する同一〇年一月まで家業の磁器の瓶栓の製造業に従事し、その間同六、七年以降粉じんの発生する仕事場で仕上作業及びかま詰作業に従事していた。又同一一年一一月除隊してから同一六年七月までは陶管の製造に従事したが、それには仕上作業はなく粉じんの発生は少なかつた。

5  原告は昭和九年五月徴兵検査で甲種合格となり、同一〇年一月入隊、同一一年一一月除隊、更に同一六年七月召集を受けて入隊渡満し、同二一年六月復員したが右期間中一月に一回位の割合で身体検査を受け、その他に集団喀痰検査、ツベルクリン、レントゲンによる検査を受けたが、当時身体の異常は認められなかつた。

6  原告は前記一で認定したように被告会社に入社後粉じんの飛散する作業場で仕事に従事したが、昭和二九年の健康診断で初めて肺浸潤であると診断され、同三一年一一月九日に受けたレントゲン検査では肺に粒状影があり、肺野に大陰影が認められる第四症度のけい肺病に罹つていると診断され、同三五年、三八年の診断結果も同様、症度四、管理区分四であつた。これらの診断結果は昭和三一年に診断した分は翌三二年八月二四日付の書面で、同三五年のときは同三五年三月三一日付の書面で、同三八年のときは同三九年一月六日付の書面で京都労働基準局長から被告に通知された。この症度四というのは休業して療養を要する症状であるからその決定通知書にもその旨記載されているが、この通知書に「本決定通知は罹患労働者に少くない衝げきを与えることと考えられるので、その通知に当つては慎重懇切に行われたい」とあつたためか或は当時まだじん肺に対する被告らの業者の認識が深刻でなかつたためか、被告は原告にこの症状決定を通知せず又原告のため作業の変更や職場環境の改善に意を用いた形跡はない。

原告も亦当時自覚症状がなかつたため、被告に特に作業の変更や職場環境の改善を求めたり療養のための休業を申し出たことはない。

7  原告は昭和四二年八月一二日職場で身体全体の疲労感が甚だしく、発熱したので午後三時頃帰宅し付近の土居医師の診断を受けたところ数日後に結核だといわれた。又同月二六日頃中央診療所の土肥実医師の診断を受けた結果じん肺に罹患しているといわれ、調べたところ京都下労働基準監督署より前記のように昭和三一年一一月と三五年三月にじん肺の症度四と決定され、同三八年には管理区分四と決定され、その旨通知されていることを知つた。

以上のごとく認められ、以上の認定に反する被告代表者本人尋問の結果の一部は措信しない。

以上の認定事実に、従前被告が作業場に粉じん含有濃度の測定器、粉じん吸引排出装置、換気扇等設置したことがなく防じんマスクも宝蔵町工場に一個あつただけでそれもほとんど使われていなかつたという当事者間に争いのない事実を合せて考えると原告は昭和三一年以来じん肺に罹患し、しかも症度四という仕事を休み療養に当るべき健康状態にあつたが自覚症状がなかつたためそのまま仕事を続功昭和四二年八月の発病をみるに至つたものというべく、又じん肺は長期間粉じんを吸収する仕事に従事する場合に罹患する疾病であることに鑑み、この疾病は原告が永年陶磁器製造業に従事し粉じんを吸つたために罹患したものといわねばならない。

被告が乙第七号証により京都労働基準局長より原告の罹患を知らされた昭和三二年八月頃は社会のじん肺に対する認識が少く、原告に自覚症状もなく、療養のための休業は原告にも被告にも収入減をもたらし又口にしにくいという面もあつて被告はずるずると原告に対するこの症度決定の通知を怠つたものと考えられるが、この決定書にはこのことを労働者に通知せよといつており、しかもその後昭和三五年、三八年と再三の同様決定通知を受けながら原告にその通知をなさず、原告の健康を守るに必要な措置をとらなかつたことは被告が使用者として守るべき原告との労働契約に含まれている義務を怠つたもので、不完全履行による債務不履行として原告に生じた相当因果関係内の損害を賠償すべきものといわねばならない。従つてこれを不法行為とみる必要はない。

但し、自らの健康を一番よく知り、一番よくこれを守らねばならぬのは原告自身であり、前記の症度や管理区分決定はその都度原告の健康診断を行つてなされているのであるから原告もその診断結果を問合せてよいし、じん肺に対する認識は被告のみならず原告もそれをもつてその防止に努むべきであり全くその認識がなかつたとは思えないし、軍隊時代の身体検査でじん肺を疑わせる結果が出なかつたとしても、じん肺が二〇年以上という長期にわたる粉じん作業の結果発病するものが多いこと前記説明のとおりであるから、原告が昭和三年以来従事した家業が原告のじん肺に全く無関係とみるのも相当でないので、公平の立場上本件損害の一五%はそれらの諸要因が寄与しそれを控除した部分が被告の責に帰すべき事由によるものと認める。

よつて被告の抗弁は右の限度で理由があり被告はこれにより算定される損害を原告に賠償すべきものといわねばならない。

尚被告の主張する消滅時効の抗弁は、当裁判所はこれを不法行為とみず債務不履行とみること前記のごとくであり、かつ原告がその損害即ちじん肺の罹患したことを知り、権利を行使しうることになつたのは昭和四二年八月であり、本件出訴はそれから一〇年以内になされていることは明らかであるから被告のこの抗弁は理由がない。

三損害について

(一)  <証拠>によれば次の事実が認められる。

1  原告が発病した昭和四二年八月当時の収入は平均して日額一五五〇円であつたところ、本件発病で休業し同月一五日から今日まで労災保険により、当初はその六割の日額九三〇円を、その後は平均賃金の上昇に合わせ増えた休業補償を受け取つている。

2  原告の症状は今尚呼吸困難、歩行時の息切れ等を訴え、じん肺の症度、管理区分決定に変更があつた事実はない。

3  しかし全く仕事をしないわけではなく、頼まれて石膏型成形作業に当り月間売上げ二万円位にはなり又京滋じん肺同盟会長として活動することもある。

以上のごとく認められるところ、症度四のじん肺患者は休業して療養すべきものという面からみればその労働能力の喪失程度は一〇〇%ともみられるが、当裁判所は本件の諸事情を考え原告の場合は労働能力の九〇%が喪失されたものとみる。

よつてその損害を次のとおりと算定する。

(二)  昭和四二年八月一五日から同五〇年四月三〇日までの休業損 九七万八六八一円。

原告が被告の主張する労災による休業補償金と、長期傷病支給金を受けたことは当事者間に争いがないが、これを更に検討すると成立に争いのない乙第一一号証の二によれば原告は右期間中労災保険より三九一万四七二八円の休業補償を受けたことが認められるところ、休業補償の金額は労災法第一四条により給付基礎額の六割であるからこれによつて逆算すると基礎額は六五二万四五四六円となるので、これを以て原告がこの期間中に得たであろう収入とみてここから原告の労働能力喪失率、前記二で説明した原告の寄与率と前記補償を受けた金額を差引くと次の計算で九七万八六八一円となる。

6,524,546×(1−0.1−0.15−0.6)

=978,681

(三)  昭和五〇年五月一日からの逸失利益  四五万四九三三円

前記乙第一一号証の二によると昭和五〇年四月当時の年間休業補償額は九七万七六一六円であることが認められるので、前記4と同様の理由でこれを逆算すると給付基礎額は年間一六二万九三六〇円となるので、その逸失利益は次のように計算され四五万四九三三円となる。

(原告の年令) 六〇才

(稼働可能年数)二年

(控除) 労災よりの給付は今後も続けられると思われ、その他の事情は前記(二)で説明したのと同じであるから0.85

(ホフマン係数)1.8614

1,629,360×(1−0.85)×1,8614

=454,933

以上(二)(三)の合計 一四三万三六一四円

尚被告の主張している長期特別傷病支給金はその性質上休業損害の補填とはみないこととする。

(四)  慰藉料 一五〇万円

原告が労災保険より或程度の補償を受けていること、その他本件に現われた一切の事情を考え右金額をもつて相当と認める。

四よつて被告は原告に対し、債務不履行に基づく損害賠償金として、以上の合計二九三万三六一四円とこれに対する本件訴状送達日の翌日であること記録上明らかな昭和四七年一〇月二五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるので、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用し、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(菊地博 佐々木寅男 亀川清長)

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